微 熱
BINETSU


「・・・様子はどうだ?」

障子を開けた瞬間に、横からかけられた言葉に原田は思わず「うぇっ?!」と奇妙な声を漏らして横に飛び退いた。

「な、なんだよ、新八かよ。吃驚するじゃねぇか!」

原田は声の方を振り向いて声をあげてから、慌てて自分の口元をおさえ今しがた出てきた部屋を振り返った。

部屋の主は変わらず穏やかな寝息をたてている。

それを確認すると、原田は静かに障子を閉めて改めて永倉を振り返った。

「いつからいたんだ?」

ポリポリと頭をかきながら、視線を外して問う原田に、永倉は腕組みをした状態で廊下の柱にもたれかかりながら答えた。

「・・・ついさっきだよ」

小さく吐き出すように言ってから、永倉は再度原田に問いかけた。

「・・・の様子は?」

永倉の静かな問いかけに、幾分落ち着きを取り戻した原田は、頭にやっていた手を首に回し、静に答えた。

「ああ・・・、だいぶ落ち着いた。薬が効いてきたみたいだな」

原田のその言葉に、永倉は「・・・ん」とだけ答え、親指を立て自分の後方を指差し、原田に歩を促すと、自分も背を預けていた柱から離れ、ゆっくりと歩き始めた。



「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

しばらく二人無言で歩いていたが、その何とも言えない沈黙を永倉が破った。

「・・・なぁ、左之」

いつになく神妙な呼びかけに、少し緊張しながら原田がそれに応える。

「・・・ぅん?」

何となく、この後に続きそうな言葉が想像できそうな気がする。

原田は首に当てた手に頭を預けるようにしながら、月の冴える夜空を見上げ立ち止まった。

それに合わせ、永倉も立ち止まり、夜空を見上げる。

二人空を見上げたまま、永倉が静かに語を継いだ。

「俺・・・、お前なら諦めがつきそうだ」

言った後、大きく息を吐く永倉に、予想通りとも予想を外したとも言える言葉を聞いた原田は月から視線を移し、今度はポリポリと頬をかいた。

そして、ニカッと笑うと原田はいつもの調子で永倉に言葉を返した。

「新八。それはオレも!」

新撰組の中で、仲のいい人間は他にもいる。

試衛館時代からの仲間は他にもいる。

けれど、自分がほのかに恋心を抱き始めたあの娘を笑顔で託せるのは、今自分の横に立つこの男の他にない。

永倉も、原田につられるようにニカッと笑うと、腕を組んだ状態で原田の方に向き直 った。

「よしっ。じゃぁ、どっちが上手くいっても恨み言はなしだ!」

「ああ!」

永倉の言葉に、原田も即座に答え、お互いに拳を突き出す。

拳が、軽くコツンと音を立てぶつかり合うと、二人はニカッと笑んで異口同音に宣言した。

「「遠慮はしねーからな!」」





薬が効き始め安らかな眠りの中にいたが、屯所の片隅で交わされた男たちの言葉を知るのは、平安の訪れるずっと先の未来のこと・・・





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