HAJIMARI 「やぁ、待たせちゃってゴメンね。今日は頼んでた着物が届く日だったからさぁ」 随分と待たされた後に現われた男は、想像していたよりもずっと軽く挨拶をする。 緊張に身体を硬くしていた少年は、男の挨拶に思わず肩が落ちるのを止められなかった。 男はそんな少年の様子など気にもとめず、続けて言葉を紡ぐ。 「俺は近藤勇。この壬生浪士組の局長だ」 言って、近藤は髪に手をやりながら、少年へちらりと視線を走らせる。 「え〜っと、君は会津藩主松平容保様の義姉君、照姫様のご紹介だったね」 言いながら見やる少年は、華奢で「ホントに大丈夫なのかねぇ?」という感を禁じ得ない。 少年は、近藤の確認に、緊張を新たにし背筋を伸ばすとハキとした声で応えた。 「はいっ!と申します」 瞳を輝かせ答えるとは相反して、近藤は大きく溜息を吐く。 相変わらず髪に手をやり、その様子がいかにも「頭痛の種」という感じに見て取れる。 「はぁ〜・・・まいったね。君、ここがどういう所か知ってる?入隊したらね、除隊はできないの」 そう言うと、近藤は髪にやっていた手を下ろし、改まった様子でを真っ直ぐ見詰め、まるで何かを読み上げるように言葉を紡ぎだした。 「一つ、士道に背くまじき事。一つ、局を脱するを許さず。一つ、勝手に金策致すべからず。一つ、勝手に訴訟取り扱うべからず。一つ、私の闘争を許さず。右条々相背き候者切腹申し付くべく候也」 近藤の言葉を黙って聞いていたが一瞬息を呑んだのが近藤にも分かる。 近藤は今一度額に手をやり、少し首を傾げるようにしながら、いつもの口調に戻って言葉を続けた。 「つまりね、そういう所なんだよ。でもまぁ、会津公を通して話がきた以上、会津藩お預かりのうちが拒否するワケにもいかないからなぁ・・・。まあ、君に関しちゃ除隊は自由ってコトにしとくからさ、きついって思ったらいつでも抜けちゃっていいよ。じゃ、そういうコトで」 先の、脅しのような言葉とは裏腹に、あっさりと除隊を認めると言い残し、近藤はの反応を待たず部屋を後にした。 「・・・う〜〜〜っ」 残されたは妙な脱力感を覚え、思わず額に手をやり唸り声を発した。 そして心の中で独り語ちる。 女だっていう詮索をまるっきりされなかったのは良かったけど・・・ 何だか私ってまるっきり期待されてないみたい・・・ ・・・というより、ただの厄介者? ・・・・・・・・。 そこまで考えてから、鈴は頭をブンブンと振る。 ううん、これくらいでめげちゃダメ! 私は剣で身を立てるって決めたんだから! 誰もいなくなった部屋で一人、百面相の末、最後にはガッツポーズを作り心に誓う・・・基、。 よ〜し、頑張るぞ! これが、・・・否、彼女の新撰組における始まりである。 |